ヤツがなんの前触れもなく帰ってくるのはいつものことで。

だからなんの期待をしていたわけでもない。

ましてや準備をしていたわけもない。

 

 

「なーんかすっかり忘れてたけど、今バレンタインだったのなあ」

日本にいなかったから全然忘れてた、と眼前のディスプレイを覗きながら言った九龍はつい一時間ほど前、日本に降り立ったばかりだ。

「今度はどこだったって?」
「ん?あ、遺跡?オーストラリアの奥地」

こいつのことだ、ついでに野生のコアラ見てカンガルーと格闘でもしてきたに違いない。
そんな他愛もないことを考えていると、ふいに思い出したように九龍がこちらを振り返った。

「あ、先に言っとくけど今回はチョコレートの土産はないから。そこらへん期待しないように」
「……なんだよ期待って……」
「忘れたとは言わさねーぞ。お前去年オレから強奪してったじゃん!」
「ああ、あの義理とおんなじヤツな」

別に格別チョコレートが好きなわけでもないからチョコレートそのものにこだわっているわけじゃない。

「だから!あんときも言ったけどオレがやる必要性はこれっぽっちもないからして、」

放っておけば延々と続きそうな九龍の口が、俺の差し出したものを見てぱたりと止まった。

 

「……………えーと……………あの、なにコレ?」

 

シックなチョコレート色の小箱にかかった赤いリボンが実に衝撃的だった。

と、のちに言わしめたそれは某有名チョコレートショップの限定商品で、紛うかたなきバレンタインチョコだ。

「いらないのか?」
「や、いる!いるッス!!いるんだけど……その、お前これ買ったの?」

おそるおそる聞いてくる九龍の顔はなんとも見ていて面白い。

「なんだよ」
「…いやなんつーか…勇気あるなァと」

確かに羞恥心すら捨て去ってあの女の群れの中に買いに行った俺は英雄だったと自分でも思うんだが。

「そりゃどうも。―――――来年は期待してるぜ、九ちゃん?」
「げッ、ウソ!?」

意地の悪い笑みを浮かべた俺の愛情表現は、我ながら相当素直じゃないと呆れたものだが、持って生まれた性分ばかりは仕方ない。

 

どこかうわついた空気につられて、俺は九龍の手を取った。

 

 

 

 

 

 

使い回しでゴメンナサイ。(土下座)
・・・・・・と、先に謝っておきます。持っている人はほとんどいないであろう、「&&&」開催記念無料配布物。
あのイベントは至福の刻でした・・・・・・ッ!(恍惚)
チラッとバレンタインネタの本とリンクしていますがまったく知らなくても全然大丈夫なので、こちらに載せることに。