◆◇ 昔 も 今 も ◆◇◆

 

 

ハーフコートの左から右へ、一直線に加速度のついたパスが通る。
それをなんなく受け止めて、間髪入れずに床を踏み切った黄瀬だったが、そう簡単に見過ごしてくれるわけもない。

 

「オラァ!」

「うわっ!」

 

後ろから走り込んできた火神の一言と共に、今まさに放物線を描こうとしていたシュートは敢え無く叩き落とされた。

 

「もー、なんでジャマするんスか。せっかくの黒子っちからのパスだったのに!」

「当ったり前だろうが!そう簡単に入れられてたまるか!」

 

着地した途端に始まったかしましいやり取りを聞きながら、黒子はフゥと大きく息を吐いて、額の汗をTシャツで無造作に拭う。
疲労はすでに限界ライン近くまで溜まっていたけれど、超高校級三人とのゲームはまだ続行中だ。
そのままラインを割ったボールを拾おうと、コート外に足を向けた黒子の肩を、大きな手がグイと引いた。

 

「なんですか青峰君?」

 

一瞬よろめいた足元をなんとか堪えて振り返れば、黒子とは対照的に額にうっすらと汗を掻いただけの青峰が、黒子の返事に呆れた顔で溜息を吐いていた。

 

「なんですか?じゃねーだろ。バテバテのくせして。ちっと休憩しろ」

「……何言ってんですか。全然バテてません。キミの目は節穴ですか」

「あーハイハイ。いいから休憩だ、休憩!黄瀬ェ、緑間と1on1してろ!」

 

元相棒の反論に適当な相槌を打つと、青峰は肩に置いていた手をそのまま反対側まで伸ばした。
そうして半ば引き摺るように歩き出してしまえば、体力も底を尽きかけていた黒子に逆らう術はない。

促されるままに青峰と共にベンチへ戻ると、今度は緑間が不機嫌そうに青峰を睨み付けていた。

 

「何故俺が黄瀬と1on1などしなければならないのだよ」

「黄瀬がこっち来ると、ウザくてテツが休めねーだろ」

 

至極当然とばかりにそう言うと、目の前の緑間ではなくまだコート内にいた黄瀬が声を上げる。

 

「青峰っち酷い!」

「いや、事実だろ」

「火神っちも酷いっス!ウザいってなんスか!?オレはただ黒子っちのことを心配してるだけなのに!!」

 

すでに青峰の言葉が事実だと証明しているようなやかましさに、緑間は眼鏡の位置を直しながら、フーッと溜息を吐く。
いつものことではあるが、確かにこれでは黒子が休まらないだろう。

 

「………まったく、仕方がないのだよ」

「わーお!真ちゃんやっさしー♪」

「な…っ、高尾!!」

 

茶化すと同時に身を翻してコート内に駆けていった高尾を、緑間が怒ったように追って行ってしまい、途端にベンチには青峰と黒子だけが取り残される。

 

「緑間君には申し訳ないことをしました」

「別にんなことねーだろ?バスケしに来てんだからよ」

「いえ、そういうことではなくて……黄瀬君の相手をすると別の意味で疲れるので、悪いことをお願いしてしまったなぁと」

「お前、黄瀬には容赦ないよな」

「そうですか?」

 

歯に衣着せぬ言い分に噴き出す青峰を見上げて、ベンチに座った黒子は首を傾げる。
もしかしたら教育係だったせいかもしれないと思わないでもなかったが、それを口にするより先に、バサリと降ってきた白いタオルが視界を覆う。

 

「……前が見えないんですが」

「お、ワリーワリー。つーかちゃんと汗拭けよ。冷えるだろ」

 

言うが早いか無造作に掛けられたタオルで髪を拭かれて、その力強さに黒子は一瞬顔を顰めた。

 

「青峰君、痛いです」

「へーへー悪かったな。つーか体もちゃんと拭いとけよ。マジで風邪引くぞ」

「……はい」

 

ポンと頭を叩いてそう念を押されて、一瞬ベンチの裏側に置いていた自分の鞄にチラリと視線を向けたものの、黒子は掛けられた白いタオルを被ったまま仕方なく頷く。

今、頭の上に被せられているタオルは青峰のものだ。
帝光中時代、2人で居残り練習をしていた時にはよくあることだったので、おそらく無意識なのだろう。

懐かしい出来事に一瞬言葉に詰まってしまったけれど、青峰が親切でしてくれた行為をあえて無碍にすることもないと思い、黒子は素直に汗を拭ってから、そのまま青峰のタオルを肩に掛けた。

 

「青峰君」

「あん?」

 

まだ春というには少し肌寒い季節だ。
大して汗を掻いているわけではないから必要ないかとも思ったが、黒子は座っているベンチの座面と背凭れの隙間から手を伸ばして自分のタオルを取り、傍らの青峰へ差し出した。

 

「タオル、ボクので良ければ使ってください」

「は?いや別にオレだってタオルなら持って―――」

 

言いかけて途中で気がついたらしい。黒子の肩に掛けられたタオルを見て、バツが悪そうに視線を逸らした青峰に、やはり無意識だったのだと黒子はほんの少しだけその口角を上げた。

 

「あー……やっぱ借りる」

「はい。どうぞ」

 

照れ臭いのか、憮然とした表情で伸ばされた浅黒い手に、黒子はそっと自分のタオルを手渡した。

 

 

 

とりあえず初書きでした。
相棒ポジはどうしても夫婦っぽくなってしまうのですが、青黒はなんかもう熟年夫婦だと思う。

「オイ、あれ」「はいどうぞ」みたいな(笑)

ちなみに火神と黒子は新婚夫婦だと思います。
ダンナのスペックが色々高くて甲斐甲斐しいなんて、素敵すぎる!

………イヤイヤ、わたしのマイ・ベスト・カップル☆は青黒です。そうですから!!